室温でのスピン電界効果トランジスタの実現に成功

スピントロニクス研究が前進、獣医の弾道領域や極低温下ではなく、常温でスピン電解効果トランジスタを実現

スピントロニクス研究の重要な目標は、電流を用いて室温で電子スピンをコヒーレントに操作することです。これが実現すれば、スピン電界効果トランジスタをはじめとするさまざまなデバイスの開発が可能になります。

従来の材料を用いた実験では、これまで、技術者や物理学者は、弾道領域や極低温でのコヒーレントなスピンの歳差運動しか観測できませんでした。しかし、2次元(2D)材料にはユニークな特性があり、スピンの歳差運動を操作するための新たなコントロールノブとなりえます。

CIC nanoGUNE BRTA(スペイン)およびレーゲンスブルグ大学(ドイツ)の研究者らはこのほど、二層グラフェンにおいて、磁場のない状態で室温でのスピン歳差運動を実証した。フィジカル・レビュー・レター誌に掲載されたこの論文では、2次元材料を用いてスピン電界効果トランジスタを実現しています。

「私たちのグループでは、例えば単純な金属など、複数の物質におけるスピン輸送を研究する長い伝統があります。」この研究を行ったジョセフ・イングラ・エインズ、フランツ・ハーリング、ジャロスラフ・ファビアン、ルイス・E・ヒューソ、フェリックス・カサノバの各氏は、取材に対してメールで語っています。「私たちの主な目標は、電子のスピンがどのように情報を運ぶことができるかを理解し、この自由度がどのように新しい機能性を持つデバイスを作るのに役立つかを理解することです。」

グラフェンは、スピンの緩和時間が最も長い物質の1つです。しかし、グラフェン上を移動するスピンを操作することは非常に困難であり、これまでは外部磁場を用いてのみ実現されてきましたが、これでは実用化にはほど遠いです。

最近、イングラ・アイネスらは、ファンデルワールス・ヘテロ構造と呼ばれる異なる2D材料を用いたヘテロ構造が、スピントロニクスにおいてどのような性能を発揮するかを調べています。ファンデルワールス・ヘテロ構造は、化学的に結合していない層を持つグラフェンベースの2D材料の一種です。

層間の強い相互作用の実現で、磁場をかけずにスピンを反転が可能な効率的なスピン軌道結合をグラフェンに刻み込む

「特に、スピン軌道結合の弱い物質(グラフェンなど)と、スピン軌道結合の強い物質(WSe2など)を積層した構造を探索し、近接することで実際にスピン軌道結合がグラフェンに転移する様子を実験的に観察しています。」と、研究者たちは説明しています。「より技術的には、層間の強い相互作用を実現することで、磁場をかけなくてもスピンを反転させることができるような効率的なスピン軌道結合をグラフェンに(有効な磁場として)刻み込むことが可能であり、これが私たちのやりたかったことです」。

イングラアイネスたちは、単一の材料を使うのではなく、重要な特性が異なる2つの材料を組み合わせて使いました。1つ目の材料はグラフェンで、スピン軌道結合が弱く、スピン緩和時間が長いです。もう1つは、スピン軌道相互作用が強く、異方的な性質をもつWSe2です。

「乾式ポリマーを用いた積層技術により、二層グラフェン/WSe2ファンデルワールスヘテロ構造を作製しました。」研究者達はいいます。「そして、層間の近接性を高めるために、サンプルを400℃以上でアニールしました。スピンの輸送を測定するために、強磁性電極を使用し、磁場と組み合わせることで、グラフェン/Se2チャネルを通過する面内・面外のスピンを測定することができました。」

イングラ・アイネスらは、使用した材料に面内電界とバックゲート電圧を印加することで、スピンの輸送時間を制御することができました。これにより、最終的には、外部から磁場をかけることなく、室温でスピンの歳差運動を電気的に制御することが可能になりました。

何十年も前から模索していた技術がようやく成功、実用化への道も

「これは何十年も前からコミュニティが求めていたもので、様々な素材を模索していましたが、今まで誰も成功しませんでした。」研究者達はそう語ります。「この発見は、スピントロニクスの応用性を示唆するものです。私たちのデバイスは、1990年に初めて提案されて以来、スピントロニクスの目標の一つであったダッタ・ダス・スピン・トランジスタのように動作します。」

今回の論文では、研究者らが開発したスピン歳差運動戦略を用いて、室温で初めてスピン電界効果トランジスタを発表した。将来的には、エネルギー効率の高いスピンベースロジックの実用化への道が開かれるかもしれません。

「今回の研究は、グラフェンを用いたファンデルワールスヘテロ構造において、スピン輸送がスピン軌道相互作用によってどのように影響されるかについての貴重な情報を提供するという、基本的な帰結でもあります」と研究者らは述べています。「次の研究では、スピンの自由度に関連した新たな物理的効果をもたらすような、他の複数の2次元材料の組み合わせを研究する予定です。」と研究者達は続けています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です